南アルプスのほぼ中央に聳える塩見岳(3052m)。
三伏峠と熊ノ平の両方向から、今まで2回登っている。そして、その山頂からは富士をバックに端正な蝙蝠岳がいつも見える。塩見岳に登れば誰もが一度は訪れたいと思う山だ。昨年、熊ノ平から三伏峠を目指したときに寄りたかったが日程や天候を考慮して断念した。そして今年、どうせ訪れるのならやはり二軒小屋から登ろうと決めた。となれば、伝付峠(でんつくとうげ)をぬきにはできない。自動的にコースも決まった。
田代発電所→伝付峠(天)→二軒小屋→徳右衛門岳(天)→蝙蝠岳→雪投沢(天)→塩見岳→三伏峠→小河内避難小屋(泊)→荒川前岳→荒川小屋(天)→荒川中岳→悪沢岳→二軒小屋(天)→転付峠→田代発電所
※写真をクリックすれば拡大します。
一日目(2007年8月11日、田代発電所から伝付峠、天泊)
|
開始は歴史あるルートから
新倉集落から西河内川沿いに林道を車でしばらく行くと田代発電所がある。ここに車を停めて伝付峠
を目指す。田代発電所から伝付峠まではなかなか趣のある路だ。
写真のように渓谷沿いに幾つもの橋や梯子が掛けられている。
殆どの橋は曲がったり、手すりが落ちていたりと若干荒れてはいるが、
それが妙にこのルートの雰囲気を醸し出すのに役立っている。
|
|
かつて、東海パルプが木材の産出を盛大に行っていたころ、大井川沿いの二軒小屋や椹島の事業所に食料等の物資を運ぶため、あるいは伐採の人夫を供給するため、新倉近辺の住民が何人も伝付峠を越えたということだ。今は大井川上流の東俣林道などの開通により廃れ、その痕跡を残すのみだが、
明治時代には伝付峠を通って富士川から長野県の伊那谷までつなぐ道(伊那街道)があった。
このルート、南アルプスの興味深い歴史を語る時、抜きにはできない路でもある。
また、日本を東西に分ける大断層、糸魚川−静岡構造線(フォッサマグナ西辺)を観察できる場所でもある。
|
|
このような滝も随所で見られる。ただ、途中ではっきりしない地点での
渡渉もあり、雨後はかなりの注意が必要。ときには崩落なども予想されるため事前に色々と確認すべき(早川町役場)。
|
|
伝付峠(1985m)
もともと転付峠と書いていたが、最近は伝付峠と書くのが正式らしい。
峠には自然に還りかけた林道があり、絶好の天場になる。写真の林道を奥に行けば笊ヶ岳に達する。
他に4人が幕営したが、彼らの明日は白峰南稜方面なので峠に、われわれは二軒小屋分岐に幕営。大声を出せばやっと聞こえる位の距離。満天の星の下、ときおり鹿の声が響くが、実に静かな夜を迎えた。
(今日の目的地は徳右衛門岳だったが、最初の遅れで、ここに幕営することを決定。)
※水は峠手前5分の登山道に十分な水量の流れがある。多分涸れることはないと思う。
|
二日目(2007年8月12日、徳右衛門岳山頂天泊)
|
伝付峠から二軒小屋までは1時間ちょっとの下り。こちらはよく整備された極く普通の登山道。
二軒小屋でひと休みしたら、いよいよ蝙蝠尾根に取り付く。
地図ではトンネルを抜けて登山口に達するようになっているが、現在トンネルは通行禁止。
代わりに、この吊橋を渡って一旦対岸に渡ってからトンネル出口に戻る。
|
|
静かな徳右衛門岳山頂
二軒小屋から徳右衛門岳まで延々と樹林帯の登りが続く。樹林帯なので直射日光は避けられるが、風が無いので蒸し暑い。「さすが南アルプス!」である。水場は徳右衛門岳山頂手前5分位の所に「水場」の標識に従って右に下る。ガレ場に入らないように慎重に下ること。水量は十分で多分涸れることは無いと思う。冷たくおいしい水だ。ここで2人分約10L汲む。
テントは山頂登山道脇に張れるスペースがあるが、実は二軒小屋方向にチョット戻ってから左(二軒小屋方向から右)に入ると絶好の場所がある。今宵も静かな山中泊。
|
|
徳右衛門岳山頂から見る悪沢岳。今回は、グルリ巡ってあそこから二軒小屋に下山予定。
|
三日目(2007年8月13日、雪投沢天泊)
四日目(2007年8月14日、小河内岳避難小屋泊)
|
朝の蝙蝠岳と富士山
前日急下降した稜線を再度登り返す。北俣岳分岐でジックリと朝日に映える富士を眺める。
|
|
塩見岳(東峰)
北俣岳分岐から先にはこんな所もある。両側が切れていて雨や風のときは歩きたくないところだ。また、西峰から塩見小屋間も慎重に歩く必要がある。
|
|
|
|
塩見岳(西峰)
塩見岳・東峰から西峰を見る。後ろには北アルプスや中央アルプスが見える。
|
|
|
|
東峰と蝙蝠岳の間、雲海に浮かぶ富士。
|
|
今度は西峰から東峰を見る。
|
|
本谷山からの塩見岳
蝙蝠岳から望む姿とは大きく異なり、力強く男性的な姿。
三伏峠で水をそれぞれ5L強補給してから小河内避難小屋(水は無い)に向かう。
※三伏峠から小河内岳までは崩落した崖淵を歩くところが何箇所もある。
気をつければ問題ないが、チョット背筋がぞわぞわする。
|
|
烏帽子岳
|
|
本日の宿泊場所、小河内避難小屋
収容人数は少ないが、こじんまりとして頑丈な小河内避難小屋。ここは、かつて塩見小屋で約30年小屋番を勤めた河村正博夫妻が管理している。
河村さんは、夕方になると外のベンチに座って眼前の塩見岳方面をズット眺めていたのが印象的だった。お二人ともとても気さくで感じが良い。
水が無いのとテントが張れない場所なので人が少なく(本日の宿泊者は我々を含めて5名)、そういう意味では案外穴場ではある。
特に夕暮れからの絶景はすばらしいの一言。ペルセウス座流星群の残りか? いくつかの流れ星も見ることができた。
|
五日目(2007年8月15日、荒川小屋天泊)
|
小河内避難小屋の夜明け
蝙蝠岳周辺から次第に明るくなってくる。
やはり、テントを撤収する必要がないのは楽だ。ジックリと夜明けの眺望を楽しんで、明るくなったら出発。
|
|
小河内岳
|
|
|
|
崩落の序章
高山裏近辺から見た三伏峠・烏帽子岳方面。あの崩落した絶壁の淵を歩いてきた。
|
|
荒川前岳の大斜面
高山裏避難小屋、さらに水場を越えて暫くすると本日最大の難所、荒川前岳のガレが姿を現す。
頭上に聳える荒川三山と広大な斜面は飛ぶ鳥でさえ越えるのは容易でないと錯覚してしまう迫力。
ふと「あの壁の向こうにはきっと風俗・習慣・言語の異なる人々が生活しているのでは?」等と妄想さえしてしまった。それほどの隔絶感と見る人をして畏敬の念を抱かせる、万里の長城(実物は見たこと無いが)のような広さと標高差700m強の絶壁が立ちはだかる。
|
|
最初は樹林の急騰(写真遥か下)。しばらくすると森林限界を超えてガレの急斜面となる。
|
|
森林限界を超え、ここまででも相当な距離を登ったはずだが、上はちっとも近づいていないことに打ちのめされる。
|
|
それこそ全身の神経が麻痺するほどガレの急斜面を登り続けるとやっと崩落の最前面に達する。
三伏峠から徐々に始まる北西の大崩落はここに極まる。
|
|
荒川前岳
それにしても、前岳の三角点は、いや前岳自体いつまでここに存在できるのだろうか?
眼下のすさまじい崩落に言葉を失う。
|
|
急斜面のお花畑
前岳と中岳間の鞍部まで一旦下り、右に急斜面を下って荒川小屋を目指す。
難所を越えた後は、異なる人々の代わりに色とりどりの花達が迎えてくれた。
秋と夏の花の端境期とはいえ、このお花畑はやはりすばらしい。
荒川小屋は目の前の尾根を越えてさらに下る。
12時過ぎに着いたので小屋のカレーを注文して食べる。
久しぶりのまともな食事。
お盆のこの時期、登山者も多く、ビールを飲みながら小屋前のテーブルで
色々と話し込む。このときミカンをもらって食べたが、久しぶりの生ものはこの上なくおいしかった。
夕暮れに悪沢方面で雷鳴が轟くが、ビール3缶を空け心地よく眠る。
|
六日目(2007年8月16日、二軒小屋天泊)
七日目(2007年8月17日、田代に下山)
|
〆は伝付峠から望む富士山。
|
花
|
夏、荒川中岳から荒川小屋の斜面、悪沢岳から千枚岳に至る路は色とりどりの花で埋められる。
いちいち写真に撮っていたらそれこそいつ目的地に着けるかわからないような感じだ。
写真に撮らなくても高山植物の図鑑でも購入すれば載っている花は殆ど足元にある。
なので、ちょっと「花を添える」程度に、上左からソバナ、チングルマの果穂、タカネビランジ(白花)、キンレイカ、ミネウスユキソウ、ハクサンイチゲ。
|
まとめ
巡った頂全てで絶好の展望という稀に見る山行だった。
あわよくば光岳までと目論んでいたが車の回収等を考慮すると日程ギリギリ。
結果は初日の道迷いと翌日朝の雨で計画変更を余儀なくされた。しかし、おかげで無理のない行程に修正できたし、災い転じて福と成すと考えるべきかもしれない。とにかく水を入れたビニール袋を針で刺した時のように毛穴から汗が出っぱなしの炎天下。無理せず刻んで進むことでゆったりと楽しむことができた。また、期せずして初日から連続3日の山中泊となってしまったが、本当に静かな山の夜を迎えることができた(ビールが無いのはご愛敬)。
食料
- 朝:
カップヌードルリフィル(詰め替え用)+ラーメン(or 味噌汁)の具(乾物、袋入)
- 昼:
ナン + マスタード/マヨネーズ + カキピー
- 夕:
アルファ米+カレー(粉末)+粉末味噌汁等
- 行動食・副食等:
甘納豆、菓子、干しブドウ、乾燥果物等
- 飲み物関係:
粉末ポカリ、クエン酸、ココア、黒砂糖等
衣類
- 替ズボン、替シャツ(長袖)、替パンツ(全て使用せず)
- サーマルシーツ(シュラフ)、化繊ジャケット、股引(使用せず)
ザック重量
約20Kg強(水を除く)
体重
約2Kg弱の減
番外メモ(体重減の要因)
- 二軒小屋から徳右衛門岳(汗だく)
- 高山裏から荒川前岳への登り(脳天が麻痺した)
- 万斧沢ノ頭から二軒小屋への下り(下半身の感覚が無くなった)