南アルプス南部縦走(聖岳、赤石岳、悪沢岳)

2005年 8月13日 〜 19日(6泊7日、避難小屋・営業小屋各1泊・テント4泊)

一日目(2005年 8月13日、ウソッコ沢小屋泊)

お盆の帰省ラッシュが始まる前に出発出来ればいいが、それでは寝ずに初日から 登ることになる。日程には余裕があるので、ここは充分睡眠を摂ってから出かけることにする。 当然のことながら渋滞に巻き込まれる。畑薙には12時位に着き、ゆっくりと昼食後、おもむろに出発。車を置いた沼平から畑薙大吊り橋までは40分の林道歩き。 途中、シナノナデシコが鮮やかに咲いていた。
本日のハイライト、畑薙大吊り橋が見えてくる。長い!
全長181.7m、足の置場20cm! 

二人が一週間分の食料とテント装備で歩けば、揺れる揺れる!!
真ん中に敷かれた板は、多分、これ以上広いと加重が分散されて不安定になることが 無いように、つまり強制的に真ん中を歩かせるためにこうなっているのかもしれない。


吊り橋を渡れば次はヤレヤレ峠。その後、幾つかの短い吊り橋を渡り、途中で会った人に聞いた 通り大岩下から流れている水を充分汲んで程なくすれば無人のウソッコ沢小屋に着く。 この時点で天気予報通り雨になる。

ウソッコ沢小屋は建物自体しっかりしているし、中も綺麗で泊まるには申し分ない。 トイレは外にある。ただ、ドアが無い。もっとも、前に板塀があるので登山道からは見えない。 小屋の周辺にはフシグロセンノウが秋を予感させるように咲いていた。
今日の宿泊者は単独男性一人と我々二人の計三人。単独男性の予定コースはほぼ我々と同じ。 ただし、明日は聖平まで足を伸ばしてから最後は転付峠を越えて身延へ下山するらしい。 小屋にはネズミが出るので食料などは吊した方が良いというような貼り紙があった。 単独男性が一言「こんな所で普段はどうして生きてるんだろう?」、これを聞いた途端 「つまり我々は願ってもないチャンス」ということが頭にひらめいた。 あわててザックの紐を締め直し、食べ残しはビニール袋に入れて紐で梁に吊した。 夜中に目が覚めたが雨とウソッコ沢の水音以外は聞こえなかったので、彼らは出現 しなかったということにしておく。

二日目(2005年 8月14日、茶臼小屋天泊)

今日は茶臼小屋まで。 5時に起床したときには、当然ながら単独男性は出発していた。 ゆっくりと準備してから6時過ぎに我々も出発。 横窪沢小屋までは急登が続く。横窪沢小屋で冷たい水を補給してから 小屋のご主人とチョット雑談。今日は天気が良いので茶臼岳からの展望は最高 だろうというので大いに期待する。そうなると、じっとしてられないので 直ぐに出発。横窪沢小屋から茶臼小屋までがこれまた急登。
ところが、最初はあれだけ晴れていた空がなんということか、茶臼小屋に近づく に従ってガスって来た。こうなりゃ競争とばかりに急ぐが残念ながら 茶臼小屋に着く頃は辺り一面ガスの中。
今日と同様に明日の朝は晴れると勝手に決めて、茶臼は明日に。 テント設営したら午後はビールと昼寝。夜は風に加えて雨まで降り出す。

三日目(2005年 8月15日、聖平小屋天泊)

遅めの5時に起床。今日は聖平まで、時間的には楽々コース。 ただし、外は雨混じりのガスに強風。 2時前に撤収準備し始めたどこかの学生団体は別にして、周りのテントも どうやら天気の推移を見守っているようで一向に撤収準備に取りかかる様子がない。 そのうち、じれたところから一組、二組と撤収し始める。 多くは光岳に行く予定だったがあきらめて易老渡や畑薙に下山するようだ。 我々もテントをたたんで、出発準備完了は6時過ぎ。 相変わらず風と小雨交じりのガスガスの中出発する。 茶臼岳に行こうとして途中で引き返してきた人に聞けば、稜線の風は凄いらしい。 ということで、茶臼岳はパスして上河内岳に向かうことにする。もちろん、こんな調子では 上河内岳もパスするつもり。 話通り、稜線の風は凄く、まっすぐ歩けないような状態。 何とか樹林帯に入り一安心。上河内岳までしばらくは樹林帯歩きだが、だんだん風が収まってくる。
そして、なんと上河内岳に着く頃は、もう一度茶臼岳に戻ってやり直したくなるような青空になっていた(こんなことなら、あと1時間粘って遅く出発すれば良かったと後悔する)。 上河内岳からは今回の縦走コースの山々がすべて見渡せる。
中央左寄りのデカイ山が聖岳(左から前聖、奥聖と繋がる)。 その左にチョット飛び出ているのが中盛丸山。左端は兎岳で、明日の縦走コース。 奥聖の右に頂上に雲を従えた赤石岳、その右に尖った荒川東岳(悪沢岳)。 一番右には下山コースの千枚岳まで見渡すことが出来る。
ゆっくりと眺望を楽しんだら聖平小屋へ向かう。 今日も12時前にテント設営して、午後は眼前に時折みえる聖岳の頂を肴にビールと昼寝。
夕暮れの月と上河内岳。
30分後。今回の縦走は、このように目まぐるしく変わる天気との競争だった。

四日目(2005年 8月16日、百間洞山の家泊)

今日は聖平小屋から百間洞山の家まで。 今回の縦走中最もハードなコース。といっても出発は5時前、直ぐに辺りが明るくなってきた。
小聖岳からの聖岳。
小聖岳をすぎ、(前)聖岳まで一気に登っていく。ガレ場に痩せ尾根が連続する。 そして、後半は有名な聖の大斜面をジグザグ行進。落石に注意しながら見上げる頂は 遙かに見えていてもなかなか近づかない。感じとしては、そう、富士山に似ている。
それでも、やっと頂上に着いた頃は辺り一面ガスの中で「もう1時間早く出ていれば…」と後悔する。風も強くなってきたし、なにしろ寒いので奥聖はパスして急いで兎岳に向かう。
写真は兎岳を越えた鞍部から聖岳を振り返った時のもの。ただし、左上に見えるはずの聖岳は 既に雲の中。

聖岳から兎岳の間は痩せた岩尾根が連続する。 かなーり下ってから一気に登るし、距離もかなーりある。 雨にでも降られたらイヤな道である。ということで、百間洞山の家までは雲との競争になる。 途中、赤石岳の名前の元になった、まるでペンキをぶちまけたような 赤い色をしてラジオラリア(放散虫)を含む露岩帯がある。やっとの事で兎岳に着く頃には 聖岳は完全に雲の中。赤石岳も雲にかすんではっきりしない。

それでも、兎岳の頂上ではタカネビランジ(白花)が迎えてくれたのは幸い。 一休みしたら小兎岳から中盛丸山に向かう。
小兎から中盛丸山へ繋がる稜線はちょうど赤岳から阿弥陀岳のそれとよく似ている。 中盛丸山は端正な円錐型で実に形が良い。 場所が場所だけに頂上には山名板も何もない単なる通過点の山として扱われているが、 これが八ヶ岳辺りにあったらどうなるだろう等と思わず考えてしまった。 聖から下って兎岳に登り返し、同様に小兎、中盛丸山と下っては登り返すの連続は 結構ハード。それでも、中盛丸山に着けば今日の百間洞山の家までは目と鼻の先。
山間の百間洞山の家と中盛丸山。大沢岳は右斜面の上。 (17日朝)
百間洞山の家には大沢岳を越えて行く道と巻き道がある。時間差は20分位なので 大沢岳を越えることも考えたが、ガスの頂上を踏んでも楽しくはないし、天気は 明らかに下り坂なので巻き道を選ぶ。巻き道に入って約40分で百間洞山の家。 急いだせいもあり1時前に着いた。お昼の準備中に雨が降り出す。 聖平から来た人の大部分は稜線で雨に降られたようだ。 今日は小屋泊。最終日に椹島から畑薙ダムまでのバスに乗るには東海フォレスト経営 の山小屋に一度は泊まらなければならないからだ。といっても百間洞山の家自体はなかなか 感じの良い小屋であり、夕食も評判のカツに加えソバまで出るし文句などあるわけもない。 県営の聖平小屋等も含めて、この辺りの山小屋のスタッフは皆感じが良い。 例のごとくビールを飲んでから昼寝などをして時間をつぶす。

五日目(2005年 8月17日、荒川小屋天泊)

食事の用意やテントを畳んだりする必要が無いのはやはり楽だ。 今日は赤石岳を越えて荒川小屋まで。小屋前の沢に沿ってテント場を通り越すと程なく稜線に出る。 稜線に出たら右に赤石岳を目指す。百問平までの急登をこなせばしばらくは本当に気持ちの良い 稜線歩き。振り返れば昨日の稜線をすべてたどることができる。
聖岳、兎岳、中盛丸山、大沢岳の全景。
百問平から振り返る。
残念ながら直ぐにガスが出て展望は今一だが、天気が良ければ足下の花と 展望で最高に違いない。百問平、馬の背としばらくは気持ちの良い稜線を楽しんだら いよいよ赤石岳の登りになる。
赤石岳の道自体は岩場のそれで、特に問題はないが上を見ると 今にもガラガラと崩れそうな大岩塊がせり出しているのでゆっくり歩こうなどという 気にはとてもなれない。とにかく凄い!
落石に注意しながら登り切り、赤石避難小屋が見えるところでホットする。 しかし、八ヶ岳もそうだが、やっとたどり着いた頂上に小屋という人工物がデンと 構えているのはどうも違和感がある。 快晴とはほど遠いが、とにかく眺望を楽しんだら出発。 赤石小屋から椹島を通って下山する道を右に見送って、しばらくすれば小赤石岳。 小赤石岳を過ぎると、あの聖の大斜面を彷彿させる砂礫の急降下。 鞍部に着いて左に広河原小屋へ向かう道を見送ってしばらくトラバース気味の道を 行けば荒川小屋に着く。今回も12時前に悠々到着。ゆっくりテントを設営したら、 昼食にビールに昼寝。

六日目(2005年 8月18日、千枚小屋天泊)

今日は荒川三山から千枚岳を通って千枚小屋まで。3000mの稜線歩き最終日。 明日は千枚小屋から下山するだけ。
荒川小屋の後ろから直ぐに急な斜面を登り出す。振り返れば大きな赤石岳が聖岳を隠して聳える。
直ぐに雲が湧き上がる。手前の斜面奥に荒川小屋がかすかに確認できる。
目を前方に転じれば目指す悪沢岳から千枚岳。
道をトラバース気味にひとしきり登り、三伏峠に通じる道を左に見送って荒川中岳を越えて中岳避難小屋に向かう。
中岳避難小屋先で雷鳥の親子に遭遇。親鳥がポーズを決めてくれた。
親鳥がポーズを決めてくれたのはいいが、子供たちは登山道を塞いで 勝手気まま。人間をおそれる様子は見られない。
いよいよ、今回の縦走最後の3000m峰である悪沢岳の登り。
道は一旦右にトラバース気味に登り、それから一気に頂上に向かう。 ここから千枚岳までは険しい道と咲き乱れる花のミックスとなる。
ナデシコ、マツムシソウ、トリカブトの青や紫の間に白のタカネビランジ等が 咲き乱れる険しい岩場の登山道。
悪沢岳頂上は岩がゴロゴロして荒涼とした雰囲気。
悪沢岳頂上からかすかに見える富士山。
千枚岳から悪沢岳をみる。
悪沢岳、千枚岳と名残を惜しんで長めの休憩をとるが、やはり雲が出てきて 直ぐに見通しが利かなくなる。仕方がないので千枚小屋まで降りる。 ぜんざいとビールとモツ煮という変な組み合わせだが、小屋で注文して食べた後、 昼食にする。千枚小屋の天場はトイレから150m先にあり、遠い。林の 中にかなり張れるスペースがあるが、本日は3張りのみ。ひっそりとして気持ちが良い。

七日目(2005年 8月19日、椹島へ下山)

今日は下山するだけなので6時にゆっくりと起床。 遅い朝食後、出発は7:30頃。既に他のパーティはいない。 最初は午後のバスで畑薙に戻るつもりでいたが、気がつけば11時のバスに 間に合いそうな雰囲気。こういうシチュエーションになると、どうしても 足が急ぎだしてしまう。結局3時間を切る時間で下山し、11時のバスで 畑薙に戻る。帰りは赤石温泉白樺荘で昼食と温泉に入った後、東名静岡から 帰宅。夕食は安楽亭で焼き肉三昧。

この時期になるとミヤマキンポウゲ、シナノキンバイ、ミヤマキンバイ、チングルマ、ハクサンイチゲといったお花畑を彩る代表選手は既に終了し、替わってマツムシソウやトリカブト等が目立つ。今回の縦走は残念ながら雲との競争になってしまったので、他の山域で写真を撮ったと確信できているものはパス。以下の写真の多くは午後に小屋の周りで撮ったもの。
悪沢岳、千枚岳間のお花畑。

シナノナデシコ(信濃撫子)[ナデシコ科ナデシコ属](花期:7〜8月)
別名:ミヤマナデシコ
カワラナデシコと異なり花弁はあまり細裂しない。
カワラナデシコ(河原撫子)[ナデシコ科ナデシコ属](花期:7〜10月)
別名:ヤマトナデシコ、ナデシコ
上記シナノナデシコとの違いを見るために参考として(2004年7月25日、車山)。 このカワラナデシコの高山型でタカネナデシコが稜線でいっぱい咲いていた。 花弁はもう少し細裂していたが写真を撮るのを忘れてしまった(下のタイツリオウギの陰)。
タイツリオウギ(鯛釣黄耆)[マメ科](花期:7〜8月)
別名:キバナオウギ
名前の由来は、豆果(秋)を釣り上げられた鯛に見立てた。
シコタンハコベ(色丹繁縷)[ナデシコ科ハコベ属](花期:7〜8月)
花は普通のハコベに比べてかなり大きいが、やはり花弁は深く2裂し、10個のように見えるが実は5弁。群生して咲いているのを遠目に見るとタカネビランジと勘違いしそう。名の由来は、千島列島の色丹島で最も古い標本が発見されたハコベから。
ミヤマウイキョウ(深山茴香)[セリ科](花期:7〜9月)
名前は香料として使われる茴香(ウイキョウ・フェンネル)に似ていて、山にあることから。 ただ、ミヤマウイキョウには香りはない。
サラシナショウマ(晒菜升麻)[キンポウゲ科サラシナショウマ属](花期:8〜10月)
名は若菜を煮て水でさらして食べたことから(漢方では根茎を乾燥して解熱・解毒にも)。 下のイブキトラノオと似ているが、より大きく、葉の形が違うので区別できる。 右下はミヤマトリカブト(同じくキンポウゲ科、ただしトリカブト属)。
イブキトラノオ(伊吹虎の尾)[タデ科イブキトラノオ属](花期:7〜9月)
名前は、花が風で動く様を虎の尾にたとえた。イブキの名がつくのは伊吹山で最初に発見されたから。
ウサギギク(兎菊)[キク科ウサギギク属](花期:7〜8月)
別名:キングルマ
茎に対生する2枚の葉が兎の耳に見えるのでこの名がある。
タカネヒゴタイ(高嶺平江帯)[キク科トウヒレン属](花期:7〜8月)
ヤハズヒゴタイの高山型。
タカネビランジ(高嶺ビランジ)[ナデシコ科マンテマ属](花期:7〜8月)
南アルプスの特産種。南部は白花、鳳凰三山の花こう岩にはピンクの花が咲き乱れる。
ハリブキ(針蕗)[ウコギ科ハリブキ属](花期:6〜7月)
葉や枝に刺(かなり鋭い)が生えていて、葉がフキに似ているのでこの名がある。
ミヤママンネングサ(深山万年草)[ベンケイソウ科](花期:6〜8月)
ヒメレンゲ(コマンネンソウ)に似ている、というかその高山型?
カニコウモリ(蟹蝙蝠)[キク科](花期:8〜9月)
葉が翼を広げたコウモリに似ているということから命名されたコウモリソウというのがあり、 カニコウモリは葉がカニの甲羅に似ているコウモリソウということ。
カイタカラコウ(甲斐宝香)[キク科](花期:7〜8月)
甲斐で発見され、根に芳香「宝香」があることから名付けられた。
マツヨイグサ(待宵草)[アカバナ科](花期:7〜8月)
夕方(宵)に咲くから待宵草。宵待草(よいまちぐさ)ではない。 竹久夢二が作詞した
1 待てど暮らせど来ぬひとを 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬそうな
2 暮れて河原に星一つ 宵待草の花の露 更けては風も泣くそうな
があまりにも印象深い。
その他、確認はしたものの写真を撮らなかった(撮れなかった)花は
チシマギキョウ、イワギキョウ、オンタデ、タカネツメクサ、イワツメクサ、ミネウスユキソウ、イワインチン、ハクサンフウロ、セリバシオガマ、クガイソウ、トモエシオガマ、オヤマノリンドウ、トウヤクリンドウ、イワインチン、タカネコウリンカ、ミヤマホツツジ
等が記憶にある。

まとめ

天候に恵まれたとは言い難いが、それほど荒れることもなかったのでまあ良い山行であった。 避難小屋等を利用すればもっと日にちを短縮することはできたが、今回のように 昼にはテントを張り、午後はビールと昼寝を決め込むという贅沢な山行も良いものである。 ただし、7日も山に入っていたのに体重の方は全く変動なし。

食料

衣類

ザック重量は20Kg程度。